虹売り





ある日、『虹売り』が町にやってきました。
見たことのない変わった幌馬車に乗ったその男は
『虹の種』を売るのではなく、
あるものと交換するために町を訪れました。

その『虹の種』というのは、土に埋めると
最初の雨が降った翌日、その場所から本物の虹が立ちます。

とても珍しい種なので、
みんな何とか売ってもらおうと必死でした。
しかし、男はお金では売りませんでした。

男は種をもらいに来た人を馬車の中に招き入れてこう言います。

「あなたが今までで一番悲しかった話を聞かせて下さい。」

実は虹の種の材料は、人の悲しかった話でできていました。

だから話の中身が悲しい人ほど大きな虹ができます。

男はその悲しみの材料の中から2割をもらって
それを一つにまとめて大きな大きな虹を作り、
お城でお祝い事のあるときに売ってお金を稼ぐのが商売でした。

そして残りの8割を虹の種に変えて話をしてくれた人に返します。

男は1週間ほどその町に滞在しました。

皆次々に悲しい話をしては、自分の土地に虹を作ってみました。

仲が良さそうな新婚夫婦の家から大きな虹が立ち上がったり、
いつも泣いて愚痴をこぼしている婦人が、
人参ぐらいしかない小さな虹しか作れなかったり、
いろいろでした。

ある日、1人の少女が訪れてこう言いました。

「私にも虹の種を下さい。」

両親を亡くして、親戚の家で育てられている少女でした。
彼女はとても朗らかで、誰にでも親切にするため、
皆に好かれていました。

育てられている家の主人は町で大きな店を経営している
金持ちでいい人だと評判でした。

少女はとても恵まれて幸せそうに思われていました。
なので、少女が虹の種をもらいに来たとき、
皆が言いました。

「今夜は雨だから、きっと虹が見られる。
あの子の腕くらいしかない小さな可愛い虹が・・・」

次の日の朝、窓を開けた町の人々はびっくりしました。

今まで見たことのないような立派な虹が
町の空に架かっていたのです。

そして、その虹は
何とあの少女の住む家の庭から立っていました。

人々はその意味を悟りました。

こんな立派な虹を見たというのに、
町中がまるでお通夜のように沈んだ空気に包まれました。

そしてその日以来、誰1人少女の姿を見ませんでした。

町中の人間が総出で森も草原も川も探しましたが、
何処にも少女はいませんでした。

少女を育てた親戚の夫婦はそれ以来、
店番を使用人に任せて、ほとんど人前に出なくなりました。

教会に沢山の寄付をして、とても長い懺悔を
聞いてもらったという噂が立ちました。

実はあの大きな虹ができた朝、
牧場で家畜にエサをやる下働きをしている、
町一番の早起きの少年は、
小さな女の子が大きな虹を駆け上がっていくところを見ました。

ところが、それを旦那様に話すと、
「でたらめを言うな。」と
モップで叩かれて信用してもらえませんでした。

その旦那様は、商店の主人の友達でした。

少年は一番仲良しの雌牛にこう話しかけました。

「そうさ、僕は知っているぞ。
あの子はお母さんとお父さんのところへ逝ったんだよ。
あんなに嬉しそうに笑っていたもの。